🕯️はじめに:畑トンネルとは?
トンネルを通り抜けてから、後ろを振り返ってはいけない。
もし振り返れば、四つん這いになった老婆が凄まじい速さで追いかけてくる――。
埼玉県飯能市に残る畑トンネルには、そんな奇妙な怪談があります。人間の顔をした犬、トンネルの中に立つ青白い親子、見つけると死ぬといわれる「笑うシミ」。怪談の種類だけを数えるなら、県内でも屈指の多さです。
しかし、このトンネルが造られた理由は、決して不気味なものではありません。明治時代、飯能と青梅を結ぶ道路を切り開くために建設された、埼玉県初の煉瓦巻き道路トンネルでした。
古い記録をたどると、怪談が少なくとも2003年には現在とよく似た形で語られていたこと、そして心霊スポットを訪れた若者が被害に遭った事件を伝える新聞記事も見えてきます。百年以上の歴史を持つこの短いトンネルに、何が積み重なってきたのでしょうか。
🗺️畑トンネルの情報
畑トンネルの基礎情報
正式名称:畑隧道(はたずいどう)
通称:畑トンネル、ハタトン、化けトン
所在地:埼玉県飯能市下畑
旧路線:東京都道・埼玉県道28号青梅飯能線
竣工:1910年(明治43年)
延長:78.3m
幅員:4.2m
構造:煉瓦巻き道路トンネル
旧道化:1987年(昭和62年)のバイパス開通
現況:坑口封鎖、トンネル内部は立入禁止
長さはわずか78.3m。それでも畑隧道には、県内で初めて煉瓦巻きが採用された道路トンネルという重要な歴史があります。規模だけでは測れない、明治期の土木技術と地域交通を伝える遺構です。
畑トンネルの場所
所在地は飯能市下畑。現在の県道28号から外れた、かつての青梅飯能線旧道にあります。バイパスの近くにありながら、旧道側は木々に覆われ、交通路だった面影を残しています。
なお、現地を訪れる場合は最新の道路規制を確認してください。かつての探索記事には徒歩で通り抜けた記録もありますが、現在の通行状況とは異なります。
周辺情報
畑トンネルが結んでいたのは、飯能と東京・青梅方面です。現在は整備された県道が山を抜けますが、かつては両地域を行き来するために大きく迂回する必要がありました。
付近には飯能市のクリーンセンターなどがあり、周辺の土地利用もトンネルの現役時代から変化しています。廃道の入口付近には、かつて県道だったことを示す古い道路標識や「畑トンネルの歴史」を伝える案内板が記録されています。
👻畑トンネルに纏わる噂と心霊現象
- トンネル内に老婆が現れ、通り過ぎてから振り返ると四つん這いで追いかけてくる。
- バックミラーを覗くと、顔の青白い母親と子供がトンネルの中央に立っている。
- 人間の顔をした犬「人面犬」が現れる。畑トンネルが発祥地だという説もある。
- 天井には人の顔に見える染みがいくつもあり、笑っている顔の染みを見つけると死ぬ。
- トンネル内や旧道のカーブミラーに、人影や女性の顔が映る。
- 誰もいない場所から声や足音、うめき声が聞こえる。
- 夜間に車のエンジンがかからなくなるなどの異常が起きる。
ひとつのトンネルに、老婆・親子・人面犬・呪いの染みまで登場する。この奇妙な取り合わせが畑トンネルの特徴です。
もっとも、すべてが最近の心霊サイトで作られた話ではありません。2003年5月20日の掲示板を読むと、すでに人面犬、四つん這いの老婆、青白い親子の噂が一度に紹介されています。当時から複数の怪談がセットで語られていたわけです。
その古い書き込みでは、老婆はただ立っているだけではなく、通り過ぎて振り返った途端に追ってくる存在でした。また親子の霊は、直接前を見るのではなく、バックミラーを通して現れるとされています。
「振り返る」「鏡を見る」「見てはいけない顔を見つける」。畑トンネルの怪談には、見てしまったことをきっかけに恐怖が始まる話が多いのです。
出典:したらば掲示板「埼玉の心霊スポット」(2003年5月20日)
🔎畑トンネルをさらに深掘り
トンネルができる前、飯能と青梅は遠かった
話を怪談から少し離し、明治時代まで戻してみます。
飯能と青梅は古くから人や物の行き来があった地域ですが、間には山が横たわり、道路は大きく迂回しなければなりませんでした。
そこで1897年(明治30年)、飯能町長と南高麗村長が共同で県知事へトンネル開削を陳情します。しかし、日露戦争などの影響もあって計画はすぐには進みません。着工に至ったのは1908年(明治41年)。「飯能青梅道」として工事が始まり、1910年(明治43年)に完成しました。
現在は木々の中に取り残された短いトンネルですが、その建設には地域の交通を改善したいという長年の願いが込められていたのです。
出典:埼玉県「コラムを読む/近代土木遺産・畑トンネル」
埼玉県初の「煉瓦巻き」道路トンネル
畑隧道が特別なのは、その造りです。
山を掘り抜いた内側を煉瓦で覆う「煉瓦巻き」の構造は、当時の道路トンネルとしては新しいものでした。埼玉県の資料は、畑隧道を県内第一号の煉瓦巻き道路トンネルと明記しています。
全長78.3m、幅4.2mという数字だけを見ると小規模ですが、山中を通る道の維持と安全のためには重要な施設でした。2007年の探索記録では、坑門の一方が煉瓦、反対側には玉石を用いた外観が見られることも紹介されています。
煉瓦のアーチと石造りの坑門。現在のコンクリート製トンネルとは違う表情が、畑隧道の大きな魅力です。
出典:埼玉県「コラムを読む/近代土木遺産・畑トンネル」/シーダーのお遊び備忘録「畑隧道~埼玉県初の煉瓦巻隧道~」(2007年)
1987年に旧道へ、1989年には市道へ
完成から約77年が過ぎた1987年(昭和62年)、トンネルを通らずに飯能と青梅方面を結ぶバイパスが開通しました。
道路の変更を県公報で追った記録によると、1987年12月22日付で新しい道路区域の変更と供用開始が告示されています。さらに1989年(平成元年)3月28日付の告示では、畑トンネルを含む旧道約1.5kmが飯能市道となりました。
ここで大切なのは、バイパスが完成した瞬間にトンネルが消えたわけではないことです。県道としての役割を終えたあとも構造物は残り、徐々に車や人が通らない道路へと変わっていきました。
出典:「道徒然話」埼玉県道28号の区域変更告示の調査/埼玉県「コラムを読む/近代土木遺産・畑トンネル」
不法投棄と土砂崩れ。旧道が荒れていった理由
廃道化が進むと、トンネル周辺の環境は変化していきます。
1990年代には旧道沿いの不法投棄が問題となり、1996年頃に車両の通行が制限されたとする記録があります。1998~1999年頃の土砂崩れに触れた探索記録も残っています。
2006年や2008年の写真では、木々が道路を覆い、速度制限標識や道路境界標がひっそりと残る様子が記録されています。実際の道路だった場所が、少しずつ山へ戻っていくような光景です。
夜の暗さや人通りのなさが心霊噂を強めたのかもしれませんが、かつてここが県道だったことを示す痕跡は、廃道となっても消えていません。
出典:廃墟写真ブログ Ruin’s Cat「畑トンネル」(2020年公開・2022年更新)/EvilSmith Laboratory「飯能 畑トンネル」(2006年)/埼玉発 おとなの小探険「畑トンネル」(2008年6月17日)
「人面犬発祥の地」は本当なのか?
畑トンネルの怪談で、ひときわ目を引くのが人面犬です。
人間の顔を持つ犬が深夜に現れ、ときには車に負けない速さで走る。1989年から1990年頃に全国へ広まった都市伝説が、なぜ埼玉県飯能市の古いトンネルと結び付いたのでしょうか。
「畑トンネルが発祥地」という説は古くから紹介されていますが、人面犬の話は全国各地で語られ、そもそもの発祥地にはいくつもの説があります。畑トンネルで最初に目撃されたことを示す当時の記録までは見つかっていません。
一方、2003年の掲示板に人面犬の噂が残っていることは確かです。少なくとも2000年代初めには、人面犬と畑トンネルの結び付きがすでに定着していたと読み取れます。
出典:したらば掲示板「埼玉の心霊スポット」(2003年5月20日)/廃墟写真ブログ Ruin’s Cat「畑トンネル」(2020年公開・2022年更新)
「振り返るな」という老婆の怪談
2003年の投稿で、もうひとつはっきり書かれていたのが老婆の怪談です。
トンネル内にいる老婆を通り過ぎ、何げなく後ろを振り向く。すると、老婆は恐ろしい表情に変わり、四つん這いになって走り出す。いくら逃げても追い付かれそうになる――。
車で通行できた時代の親子の霊の話も同じです。前を見ている間は何も見えなかったのに、バックミラーを覗くと、青白い母親と子供がトンネルの中央に立っている。
畑トンネルの怪談に繰り返し現れるのは、振り向いた先、鏡の向こう側にだけ現れるものです。わずか78mのトンネルだからこそ、出口へ着いてから後ろを見たくなる心理を巧みに利用した怪談ともいえます。
出典:したらば掲示板「埼玉の心霊スポット」(2003年5月20日)/「Jyunji Inagawa Respectのブログ」2002年『産経新聞』記事の転載(2011年)
「笑うシミ」を見つけると死ぬ?
天井の染みをめぐる話は、さらに不気味です。
内壁の白っぽい染みの中に、人の顔がいくつも見える。そのほとんどは苦しげな表情を浮かべているものの、たったひとつだけ「笑っている顔」があり、それを見つけてしまうと命を落とす――。
この怪談は2009年の探索記録にも詳しく残されています。同記事には、肝試しで笑うシミを指さした女性が、のちに異常な言動を取り、最後には亡くなったという伝聞まで登場します。
一方、別の探索者は天井の模様を確認しようとしたものの、噂と一致する染みを見つけられなかったと記録しています。染みの見え方そのものが人によって異なるところも、この怪談の特徴でしょう。
出典:廃墟廃墟「畑トンネル」(2009年)/廃墟を旅する「畑トンネル」(2011年頃の探索記録)
2001年、心霊スポットで起きた強盗事件
畑トンネルについて古い記事を探していると、心霊の噂とは別に、実際の刑事事件を伝える記録が見つかります。
2011年に公開されたブログには、2002年3月7日付『産経新聞』の記事が転載されています。見出しは、心霊スポットのトンネルで強盗があり、少年3人が逮捕されたという内容です。
転載文によれば、事件が発生したのは2001年7月27日早朝。飯能市下畑のトンネルを訪れた男女2人が現金2万2,000円を奪われ、男性は暴行を受けて約10日間のけがを負ったとされています。飯能署が強盗などの疑いで3人を逮捕したと伝えています。
この事件で注目したいのは、記事の時点で畑トンネルがすでに若者に知られた心霊スポットとして扱われていることです。少なくとも2001年には、肝試しの目的地として名前が通っていたことがうかがえます。
ただし、今回確認できたのは新聞記事の転載であり、『産経新聞』の原紙そのものではありません。事件の詳しい経緯については、原紙や捜査・裁判記録との照合が今後の課題です。
資料:「Jyunji Inagawa Respectのブログ」2002年『産経新聞』記事の転載(2011年)(2002年3月7日付『産経新聞』の記事を転載)
2007年にはアイドルのPV、心霊番組の舞台にも
意外なところでは、畑トンネルは映像作品のロケ地としても名前が挙がります。
2007年発売のAKB48「制服が邪魔をする」のPVに登場する煉瓦造りのトンネルが、畑トンネルではないかと当時のファンブログで話題になっていました。その後の廃墟写真ブログでも、畑トンネルが同曲のロケ地として紹介されています。
また、稲川淳二さんの『真相・恐怖の現場 恐怖の検証』Vol.4に登場する埼玉のトンネルも、畑トンネルとして心霊サイトで紹介されています。作品紹介には、振り向いてはいけない、目を開けてはいけないと語られる埼玉のトンネルに潜入する内容が掲載されています。
煉瓦造りの暗い坑道は、怪談だけでなく映像表現の舞台にもなってきたのです。
出典:「劇場に行けなくても AKB48」『制服が邪魔をする』のロケ地調査(2007年)/廃墟写真ブログ Ruin’s Cat「畑トンネル」(2020年公開・2022年更新)/Apple TV『稲川淳二 真相・恐怖の現場 恐怖の検証』Vol.4
現在はトンネル内部に入れない
昔の写真では、畑トンネルの煉瓦アーチから反対側の光が見える光景が残っています。しかし、現在の状態は異なります。
2021年11月公開の廃道探索記事には、2021年10月に老朽化のためトンネル内部が立入禁止となり、完全封鎖されたとの追記があります。2022年の再訪記録では、坑門を金属板で塞いだ状態が写真で確認されています。
かつての「車両通行止め」と、現在のトンネル内部への立入禁止は同じではありません。昔の探索記事を参考にして、封鎖された坑口を越えたり、旧道のゲートを迂回したりすることは避けてください。
今なお残る歴史的な煉瓦隧道を知るには、古い記録や写真も貴重な手がかりになります。
出典:「はうやし報告記(仮)」畑トンネルと廃道の記録(2021年)/廃墟写真ブログ Ruin’s Cat「畑トンネル」(2020年公開・2022年更新)
📷畑トンネルに実際に行ってみた
ここからは、畑トンネル周辺で撮影された写真を紹介します。かつて車が行き交っていた明治の煉瓦隧道が、どのような姿で残っているのかをご覧ください。

















😱畑トンネルの恐怖度
雰囲気:★★★★☆
立地:★★★☆☆
心霊現象の有無:★★☆☆☆
過去の事故事件の有無:★★★☆☆
総合評価:★★★☆☆
✍️まとめ
今回は、埼玉県飯能市の畑トンネルを紹介しました。
四つん這いで追いかける老婆、人面犬、バックミラーの中に現れる親子、そして「笑うシミ」。どの話も強烈ですが、2003年の掲示板にはすでに主要な怪談がそろっていました。昔から語られていたものが、インターネットや映像作品を通じて広がっていったのでしょう。
その一方、畑トンネルには怪談だけでは終わらない歴史が残っています。1897年の開削陳情から13年後、1910年に完成した県内初の煉瓦巻き道路隧道。1987年にバイパスができるまで、飯能と青梅を結ぶ交通を支え続けました。
さらに驚いたのは、心霊スポットを訪れた若者が被害に遭った強盗事件を伝える2002年の新聞記事です。噂の中に登場する霊の由来とは別に、この場所が肝試しの舞台だった時代の現実を物語っています。
現在はトンネル内部が封鎖されています。誰もいないはずの道を駆けてくる老婆の姿を想像するのも怖いですが、その道を本当に必要として造り上げた人々の歴史も、忘れずに残しておきたいものです。
それでは――お憑かれさまでした。
🔗関連する心霊スポット
埼玉県の心霊スポットでは、七里殺人の森や松原公園にも、地域の歴史とさまざまな怪談が残っています。
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また、畑隧道の建設や道路の変遷に詳しい方からの情報も大歓迎です。




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